「横浜のとあるカフェにて」

　　先日の横浜でのライブリハーサル終了後、本番まで時間があったので時間潰しにしげちゃんとカフェに行く事に。
お互い甘々のコーヒーを注文し向かい合って着席。
コーヒーを飲み始めてから少し経ってある事に気が付いた。
しげちゃんがオレの肩越しから先にある何かをずっと見つめているのだ。
振り返ってみると一人の女性が本を片手にコーヒーを飲んでいる。
しかしその隣には明らかに連れの人間ではないと分かる初老の男性が、不自然なくらい接近した間合いで座っていた。

変質者に間違いない。

女性は不愉快と恐怖が入り混ざったような表情で隣の席へ移動した。
すると男性も女性の後を追いかけ、席を移動しようとしたその時！女性と男性の間に一人の男が割って入った。

しげちゃんである。

しげちゃんは、異様の行動を取る男性に注意するのではなく、まずは優しい顔で女性に一言。

「大丈夫ですか？」

と声を掛けた。とりあえずは女性を安心させようとしたのだろう。
しかし男性はまだ諦めない。しげちゃんを押しのけようとし尚も女性に近付こうとしている。
普通の人間ならここで男の胸ぐらをつかみ、声を荒げ一喝するような場面であろう。
だがしげちゃんは違った。声を荒げれば間違いなく周囲の人間が注目する。その時女性は少なからず辱めを受けてしまうだろう。そうさせない為にもただただ黙って背中で男の接近を阻止している。
女性へ配慮しながら何をするかわからない男に背を押しつけ、静かに闘い続けるしげちゃんの姿はまさしく男の中の男であった。

暫くして女性は帰り支度を始めた。これ以上しげちゃんに迷惑を掛けられないと判断したのだろう。
席を立ち深々としげちゃんにおじぎをして女性は店を出て行った。

その後も異様な行動を取る男性は別の女性を求め店を徘徊。オレ達も店を出る時間になった為、不審人物の存在を店員に知らせ店を後にした。

ライブハウスへの帰り道、しげちゃんの背中がこれまで以上にデカく見えた。　　　　　　　　清正