THE NEUTRAL =歩道橋の上=

2015/10/21

東京の路地にて

数年前、後輩の父親が亡くなった。
「もともと関係がそれほど良くなかったから、思ったほど悲しくないんっすよ。」
そういう後輩の真意を僕は汲み取る事も出来ず、とにかく元気づけようと「腹減った！飯いこうぜ！！」とベタな選択肢をとって出かけた。

広島焼きのうまい店があるねん。
と出かけたが、その店はなくなっていた。
そもそもなくなるような店本当にうまかったのか！？と今になって思うのだが、その時は「なんでこんな時になくなってるねん！」と亡き店の後を睨んでいた。が、かといって車を出して別のところへ移動する間のガッツはなく、ってか後輩を元気づける為にもガッツ出せよ！と今になって思うのだが、そんなことよりもお好み腹になった気持ちをどうにしかしたくて、うろうろしていると、まさかのできたてのお好み焼き屋を発見！！
もうここでいいか？と後輩を元気づけるという当初の目的をなくしたまま店内へ。

おそらく脱サラで新しくお店を出したのだろう。
かねてからの夢だったのかもしれない。
絶対そうだ！と思える理由の一つに家族経営丸出しだった。
高校生の娘も無理矢理バイトをさせられ、お母さんらしき人の不慣れなのに過剰接客と言うなんともアットホームな空間。
父親を亡くした後輩と、家族経営のお好み焼き屋。
なんてこったい。
せめておいしくあってくれ！と願う僕の思いはどこへやら。
出てくるのはめちゃくちゃ遅い。しかも客が自分で焼くタイプで店もガラガラなのに遅いってどういう事！？味はもちろんおいしくない。

ご飯屋さんでおいしくないと会話は弾まない。
なんかごめんなぁと後輩に言い残して店を出た。

「それにしてもまずかったなぁ。」
「まずかったっすねー。」

覚えているのはその会話と、店を出た時に珍しく星がきれかった事。
さっきぐるなびで調べたら、当然その店はもうなくなっていた。

あの家族もあの日の僕らと同じように星が見れたら良いなぁなんて思った。